
【世界卓球2025 ダブルス優勝】ここからが本番。戸上隼輔が見据える次の舞台
パリオリンピックで噛みしめた悔しさを力に変え、戸上隼輔(井村屋グループ所属)は世界卓球ダブルスで頂点に立った。しかし、その胸に湧いたのは、歓喜よりも覚悟だった。
次こそは、もっと強く。もっと上へ。
世間からの注目の変化、そして日本のエースを目指す決意。
いま成長の真ん中にいる戸上が率直に語る現在地とはー
|優勝の瞬間に感じた複雑な胸の内
パリオリンピックでは思うような結果を残せず、深い悔しさが残った。だからこそ「次こそは結果を出したい」と強い気持ちで臨んだ世界卓球。
大会が始まる前から、上田コーチには「戸上なら優勝できる、世界チャンピオンになれる」と言われ続けていた。
その言葉を胸に挑んだ世界卓球ダブルス。優勝を決めた瞬間は、間違いなく戸上にとって特別なものだったが、あまり実感が湧かなかったという。
今でもその実感は薄いものの、世界チャンピオンという称号は戸上に新たな覚悟をもたらした。
「チャンピオンになって、ここからが勝負だなと。これから結果を出し続けなきゃいけないという覚悟が一つ決まった、いいきっかけになったと思います」と語った。
ただその裏で、シングルスはベスト8敗退という結果に終わってしまった。
個人戦でもメダルを獲得するチャンスがあっただけに、優勝の嬉しさと同時に悔しさも感じていたという。
「ダブルス優勝の喜びとシングルスでの悔しさが入り混じり、正直複雑な気持ちでした(笑)」と戸上は笑った。
|ダブルスで最も大切にするのはコミュニケーション
ダブルスを語る時、戸上は真っ先に「コミュニケーション」という言葉を口にする。
パートナーが何を求めているか、何をしてほしいかを聞きながら、自分たちに合った戦術を話し合って決めることが不可欠だという。
「ダブルスではシングルスでやらないような戦術も必要になるので、練習からパートナーと信頼関係を築くために、話し合う時間を多く取るようにしています」と戸上は話す。
お互いの長所を活かすためには、時に我慢も必要となるため、その都度、状況に応じて意見を交換できる信頼関係がとても大切なのだ。
例えば篠塚選手とペアの時は、タッチや細かな技術が優れている篠塚選手にサーブレシーブやラリーまでの展開作りを任せ、戸上はラリー以降の展開を指示する役割を担う。
この役割分担が互いに合っていることも、勝利への重要な要素だという。
新しいパートナーとのペアでは、まず自身の強み・弱みを共有し、少しずつ照らし合わせながら戦術を組み立てる。
「ダブルスは時間がかかる競技。練習でできなくても、試合で急にできるようになることもある。勝てなかったとしても、やり続けることが大事だと思います」と戸上は語った。
|注目の高まりと、今の戸上が見ている真正面

世界卓球で優勝したことで、世間からの注目は大会前と比べて大きく変化した。
特にロサンゼルスオリンピックでダブルスが正式種目に加わることもあり、今回の優勝が次のオリンピックで金メダルを狙えると思ってもらえる機会になったと感じているという。
期待が増せば当然プレッシャーも高まるが、戸上は意外にもこう話す。
「これまで以上にプレッシャーはあるかもしれませんが、正直今はダブルスについてはあまり考えていません。シングルスで結果を出さないとそもそもオリンピックに出られないし、ダブルスにも選ばれない。ロサンゼルスオリンピックに行くためにシングルスを頑張るというのが今の心境です」
オリンピックへの切符を掴むためには、シングルスで結果を出すことがあくまでも最優先。ダブルス世界チャンピオンになった今、戸上の本番はこれからだ。
|ドイツで育つエースとしての自覚
ドイツに拠点を移してから、競技面・生活面ともに良い方向に進められているという戸上。
今年で3シーズン目を迎え、ウーゴ・カルデラノやシモン・ゴジといった主力選手が退団し、自分より若い選手が増えたことで、チームのエースとして引っ張る役割を担う立場となった。
「不安はありますが、ロサンゼルスオリンピック出場やシングルス世界一を目指す中で、エースとしてのあり方を学び、自分なりの気持ちの持ち方を見つける良い機会になると思っています」と戸上は話す。
そして、目指す場所ははっきりしている。
「今は日本代表で2番手、3番手の立場。でも将来的には必ず張本選手を越えて、日本のエースとして戦いたい。そのために、ドイツチームで経験を積み、吸収できることを全部吸収したい。自分自身を高めていくことで、世界ランキングトップ10という目標にも近づけると思います」
その言葉の端々からは、さらに上を目指す強い意志が滲む。
戸上隼輔の成長の先にはどんな景色が広がるのか。期待せずにはいられない。
