2026年4月29日

「勝てない相手ほど、面白くなる」登坂絵莉の格上と戦うマインド

登坂 絵莉

劣勢の場面で人はどう振る舞うか。

守りに入るのか、それとも可能性を探しにいくのか。


登坂絵莉の競技人生を貫いてきたのは、どんな相手であっても挑戦を選び続ける思考だった。

その原点には、幼い頃から耳にしてきた父の言葉がある。

父の言葉が作った“ジャイアントキリング思考”

『1点取ってこい。点が取れなくても何かやってこい。ただでは負けるな』


それは、登坂が子どもの頃から父に繰り返し言われてきた言葉だった。


「私はレスリングを始めたのが小学3年生で遅い方だったんです。周りは幼稚園から始めている子が多くて、すでに全国を目指している子もいましたし、勝てない相手もたくさんいました」


それでも父は登坂を試合に送り出す時、決まって同じ言葉をかけた。


「自分でも、きっとこの相手には勝てないだろうなと思っていても、何かしてやろうとは思っていました。ずっと父から言われていたので、絶対に1点取るとか、“普通に負けることはしないぞ”という気持ちはいつも持っていましたね」


実力差があっても、ただでは負けない。

だから子どもの頃の登坂は、型破りな戦術も使ってきた。


「レスリングは基本的にタックルの勝負なんですけど、私はいきなり投げ技を仕掛けてみたりしていました。急に飛び道具みたいな技を出すことで、もしかしたら相手がびっくりして大きい得点が取れるかもしれない。そういうこともずっと言われていたので、たとえどんなに可能性が低くても、とにかく何か糸口を探す癖がつきました」


この積み重ねが、格上相手とやる方が面白いという心の置き方につながる。


「子どもの頃は実力差がある時は、“一番強い人とやりたい。ジャイアントキリングを起こしたい”と思っていましたね。自分が持っているものを全部出して負けたとしても、もともと実力差があるんだからって思えるじゃないですか。だから、せっかくなら開き直って、暴れるくらい好き放題やって、その空間を楽しんだ方がいいと思うんです。それに、強い人に勝つとみんなが驚いてくれるので、それを想像すると面白く感じてくるんですよね」

奇策から本質へ―格上を崩す具体策


とはいえ、競技の舞台が上がるにつれ、奇策が通用するのは難しくなっていく。


「子どもの頃は、投げ技など相手の意表を突くような技は比較的かかりやすいですが、さすがに大人になると滅多にかからないですね。そうなると、一番得意な技で攻めるしかない。私だったら片足タックルですね。慎重に入る時と、体ごと全部投げ出す時があって、100%投げ出すのは突っ込む形になるので、相手に回り込まれるリスクがあるんです。でもどうにか1点取りたい時は、ジャンプするぐらい思い切って飛び込むタックルを使ったりしていました」


そしてもうひとつ、格上に対抗するための技があるという。


「捨て身の返し技で、海外選手が日本選手に対してよくやる技です。強い相手は必ずタックルに入ってくるので、それを狙って思い切って返すんです。吉田沙保里さんの連勝が119で止まった試合がそうですが、相手は完全に捨て身で、吉田さんがタックルにくるのを狙って、とにかく返し続けるっていう戦い方ですね」


可能性がわずかでもあるなら、そこに飛び込む。ただでは終わらせない。

その思考はやがて、格上を恐れない武器となり、世界の頂点へつながる力になっていく。


勝てないかもしれない。でも、何かは起こせる。

その発想がある限り、勝負は最後まで面白い。