2026年2月12日

基礎こそが未来をつくる─育成の違いと長く勝つ柔道の条件

出口 クリスタ

これまでに複数の国で柔道教室を行ってきた出口クリスタ(日本生命所属)。
その中で強く感じたのは、基礎がいかに大切かということだ。
海外の選手や指導者と向き合う中で、浮き彫りになった課題を率直に語る。

基礎を根付かせる環境が日本にはある

クリスタがまず感じたのは、子どもたちが柔道を始める背景の違いだ。


日本では親が柔道経験者だったなどの流れから、環境に促されて始める子が比較的多いが、海外では子ども自身が柔道を習いたいと、自発的に始めることが日本よりも多いという。


この違いは親の関わり方にも表れており、日本は親が熱心で、子どもの指導に口を挟むことも多々あるが、海外では子どもが主体的に始めているという理由から、親が口を挟むというケースは滅多にない。


そして、練習への取り組み方にも違いがあると話す。

「私自身もそうでしたが、日本の子どもたちは、先生や親など周りを意識して練習している子が多いと思います。その分、与えられたメニューにまじめに取り組みますが、海外の子どもたちは、自分のためにやっているという主体性が強いので、周りのことはほとんど気にしない。自由度が高いので、自分がやりたい練習をやるという意識が強いと思う」


こうした背景の差は、基礎技術の習得にも大きく影響しているという。


「基礎はしっかり身につけた方がいいですが、子どもにとってはすごいつまらないんですよね。でも日本は、指導者に従ってみんなが決められたルールを守る文化があるので、ある程度強制された環境でも真面目に取り組むことができる。だから、基礎を徹底できるんです。でも、海外は自由度の高さから、子どもがやりたがらないことを強制することはできないので、基礎ではなく応用技ばかりを練習する傾向にあると思う」

「基礎の力」短期の勝利か、長期の成長か


続けて、クリスタは基礎の重要性を強調する。


「特に小学生はこれから成長していく選手なので、柔道を長く続けるなら、基礎は絶対に必要。小学生の頃から応用技を使う選手は、その時は勝てるんです。試合に最短で勝つための戦い方だから。でもそればかりになって、肝心の基礎は育たないんですよね」


そして、その最短で勝つための戦い方が、成長の妨げになる瞬間が必ず来ると語る。


「基礎がしっかりしていると一つの技に行き詰まった時に、別の基礎の土台から新しい技を育てていけるんです。でも基礎がないと次に繋げるための土台がないから、すごく狭い中でやり続けるしかない。ずっと勝ち続けることは難しいので、勝てなくなった時に、必ず行き詰まると思います」


これまで訪れたイタリア、カナダ、アメリカなど複数の国で、基礎不足は共通して見られたという。


「日本の道場は、小中高で基礎を徹底的に教えます。高校生くらいからは変則的な柔道も覚え始めますが、基礎の徹底が基本です。だから技の幅が広がるんです。日本でも、比較的早いうちから応用技を習って、その当時は勝つ選手もいますが、将来的にはあまり芽が出ていない印象です。やっぱり私は、高校までは基礎を徹底して、応用は大学からで十分だと思っています」


海外が単発の応用技を進んで取り入れる傾向にあるのは、日本との考え方の違いもあるという。


「海外は、強い選手を投げられる技こそ強いに決まっていると思っている。だから、その技だけを見よう見まねで真似してやるんです。特に多いのが隅返しと肩車。両方とも倒れこむ技なので次に繋がらないんですよね。足技で崩して大技を仕掛けるなど、基礎があると様々な連続技に繋がりますが、基礎がないとその技だけの単発の選手になってしまうと思います」


そして、成長段階の選手が早いうちに応用技をやり始めてしまうことには懸念があると話す。


「トップ選手がやっている技をやりたいという気持ちはわかります。でも、長い目で見たら伸びにくいし、特に技術面、身体面で未熟な子どもたちにとっては、本当に危ないんです。重大な怪我に繋がる可能性があるので、小学生の大会では禁止されている技もある。派手な投げ技も魅力はありますが、成長段階の選手は捨身技ばかりを練習するのではなく、基本である釣り手と引き手を持って、立ちながら技をかけるという練習をすることが大事。相手がこう動いたから自分はこう動くという基礎をしっかり理解することが重要だと思います」


各国の柔道教室を回る中で出口クリスタが感じたのは、“勝つための柔道”と“伸び続ける柔道”の違いだ。

基礎は、選手の未来を育てる土台。

長く勝ち続ける選手をつくるのは、いつの時代も、そしてどの国でも、基礎を積み上げた者なのだろう。


(写真 :日髙慎一郎)