2026年2月24日

「世界の柔道、日本の柔道」出口クリスタが語るスタイルの違いと対応力の重要性

出口 クリスタ

日本が圧倒的な強さを誇った時代から、柔道はいま大きな転換点を迎えている。


出口クリスタ(日本生命所属)は世界の様々な選手や指導者と関わる中で、国ごとの柔道スタイルの違いや、日本が海外勢に押される理由を改めて実感したという。


日本と海外、両方の柔道を知るクリスタの視点から、その変化を読み解いていく。

海外柔道はどう変わったのか。ルール改正が生んだ進化

かつての柔道は日本がほとんどの階級で金メダルを獲得していた。

しかし近年は状況が変わりつつある。
クリスタはその背景をこう語る。


「昔の海外選手はレスリングみたいな柔道だったんです。距離を詰めて、くっついて、体ごと持ち上げて倒すみたいな。前は足取りもOKだったので、無理やりくっついて、足を持って倒すとか、技というより、力でとにかく倒す柔道という感じですね」


だが、あるルール改正が状況を一変させた。


「足取りが禁止になってから、ちゃんと立って、しっかり組んでというベーシックな柔道をしないといけなくなった。そこから海外の柔道が変わってきたと思います。日本にとっては、海外選手がベーシックな柔道をするようになったことでやりやすくなった。でも、海外って、何この技!?っていう新しい技をどんどん生み出すんですよ。日本は基本を大事にしているので、突拍子もないことはほぼ起きない。なので、昔は日本は足を持たれて倒されたり、力技で負けることが多かったけど、今は奇想天外な技に対応できなくて負けることが多い。海外はいい意味で自由なので、技の枠を広げていく気質があるし、それが強くなってきた理由でもあると思います」


国によって柔道スタイルは様々で、同じアジア圏でも違いがあるという。


「韓国などの選手を見ていると、2つ持つ柔道がしっかりしているので日本と近いと思います。モンゴルやロシア、カザフスタンなどの選手は、とにかく接近戦が強いですね。体がくっつくくらい距離を詰めて、背中をガッと持って、そこから一気に持ち上げて投げる。大胆で豪快で、技術というよりも力技のような感じなので、日本とは全然違いますね」

では日本の柔道はどうか。


「日本は基礎がしっかりしているので、オールマイティです。立ち技も寝技も、どちらもできる選手が日本代表に選ばれますし、そういう選手がやっぱり勝っている。そこが昔からの日本の強さだと思います」

分析だけでは埋まらない威力の壁

では、なぜ日本が海外に押される場面が増えたのか。
クリスタは原因の一つとして、試合経験の差を挙げた。


「日本が負ける=対応できていない、ということだと思うんです。海外の柔道を実際に肌で感じる機会が少なすぎるんじゃないかなと思っています」


海外ではトップ選手が多くの大会に出場する一方で、日本は戦略的に大会を回避する場合もあるという。


「海外は控え選手が少ないこともあると思いますが、トップ選手でも本当にめちゃくちゃ試合に出るんですよ。私もカナダ代表の時はたくさん試合に出ていて、そのおかげでさらに強くなった実感があります。もちろん日本チーム内で、海外勢の技や戦術の分析、情報共有はされていると思います。ただ、いくら練習で対策をしても、実際に海外選手から受ける威力は全然違う。実戦じゃないと威力まではわからないので、個人的にはなるべく早い段階で、試合で受けてみた方がいいと思う。知識があっても、受けるのは初めてという試合が、いきなり世界選手権やオリンピックという状況になることは絶対に避けた方がいいと思います」


そしてクリスタは、大会と大会の間隔が空くことで、体調管理や試合感覚を保つことも難しくなると語る。


「たとえば、今回出た大会から次の大会は半年後となると、その間で体重も増えてしまうし、ピークの作り方も鈍ってしまう。半年ぶりの試合だから緊張もするし、試合の感覚を取り戻すのにも時間がかかってしまうんですよね。大会によって、反則を取るのが早いとか審判の傾向もまちまちなので、頻繁に大会に出ているとその傾向も掴みやすいけど、間隔が空いてしまうと直近の傾向が掴めない。大会と大会の間隔が長く空いた状況で、優勝するための試合運びをするのはすごく大変なことだと思います」

畳の上で見た勝ちへの執念


また、日本と海外では勝利に対する価値観の違いが大きくあるという。


「海外の選手は、本当にアグレッシブで勝ちにすごく貪欲だと思います。髪を掴んでくることもあるし、寝技で締められないように首元を隠すと耳をグリグリされたり、顔をガンガン攻められたり(笑)必要以上に痛めつけてくる感じはありますね」


実際クリスタ自身も、足技で皮膚が削れるほどの攻撃をされた経験がある。


「もともと足技が上手い選手だったんですけど、あれは足技じゃなくて蹴りでしたね。それを何回もやられて、アザじゃないんですよ!脛の長さくらいの削れた傷ができて、さすがにコノヤローと思いましたけど(笑)あれは本気で痛かった」


そして、心理的な揺さぶりも当然のようにあると話す。


「相手が覆いかぶさっていて、私は潰れた状態だったんです。そしたら、相手が離れたので、待てがかかったと思って力を緩めたら、その瞬間に締めてきたり。日本選手はそんなことしないということを、海外選手はやってきますね。日本はフェアプレイ精神が強いけど、海外はそれ以上に勝利への貪欲さがものすごく強いんだと思います」

技を磨く日本、体を鍛える海外

クリスタが日本と海外で感じたもうひとつの大きな差は、練習内容の配分だ。


「日本は技術練習にたくさんの時間を使います。柔道が強くなりたければ、基礎と技を磨けと言われる。でも海外は、ウエイトトレーニングに時間を割くところが多い。技術力を上げることにはある程度限界があるし、海外ではなおさら難しい。筋力や身体能力を上げることで、技術の限界を補おうとしているんだと思います」


だからこそ、基礎がある海外選手は強いと感じるという。


「柔道は基礎と技術をしっかり身につければ、相手が自分よりも大きくても勝つことができます。日本選手が体格差があっても勝てるのは、基礎力と技術力があるから。だから個人的には、基礎ができる海外選手はすごい強いと思いますね。体も強いし、パワーもあるし。やっぱり日本柔道の強みと、海外柔道の強みをミックスさせた選手が一番強い。だからこそ、海外は日本の技術を求めてくるし、私たちが講師として呼ばれるんだと思います」


基礎と技術を磨き続けてきた日本柔道と、自由な発想とフィジカルを武器に進化してきた海外柔道。

世界の頂点に立つために求められているのは、基礎を土台に、未知の強さを受け止め、吸収し続けられるかどうか。

その積み重ねの先にこそ、勝利を掴み取る未来が見えてくるのだろう。