2026年2月19日

スポーツの原点は現場にある—スマイルコンパスが子どもたちと過ごす時間

登坂 絵莉

“スポーツは本来楽しむもの”

その言葉を子どもたちと分かち合うために、一般社団法人スマイルコンパスは今日も全国の特別支援学校や施設を訪ね歩いている。

スマイルコンパスが届けているのは、それぞれの訪問先に合わせたオリジナルのスポーツの時間だ。

特別支援学校の活動を軸に、個性に合わせたオーダーメイドプログラム

スマイルコンパスの活動の中で最も多いのが、特別支援学校での取り組みだ。
小学生から高校生まで、幅広い年代の子どもたちを対象としている。


「実施プログラムは、レスリングやサッカーなど、自分たちの専門競技に寄せることはしません。まず、行かせていただく学校が決まった時点で、先生たちから子どもたちがどんな個性を持っているかを教えてもらって、みんなができる範囲で、どんな動きなら一緒に楽しめるかを考えます。そこから、先生たちにもご協力いただきながら、プログラムを組み立てています」


スマイルコンパスが大切にしているのは、楽しみながら体を動かすということ。

決まったプログラムに当てはめるのではなく、その学校、その子どもたちに合わせてつくる“その日だけのスポーツ”。
それが、スマイルコンパスのスタイルだという。


「小学校なのか、中学校なのか、高校なのかということでも全然違いますし、子どもたち一人ひとりの個性も違います。一緒に体を動かすだけでなく、年齢に応じてトークセッションを入れることもあります。本当に、行かせていただく学校ごとにオリジナルですね」


活動は特別支援学校だけでなく、児童養護施設でも行ってきた。


「養護施設の子どもたちは、思い切ってスポーツをできる子が多い印象です。みんなで一緒にサッカーをしたり、全力で運動することが多いですね。思い切り体を動かしたいという要望があれば、一緒に何ができるかを考えながら、積極的に取り組んでいきたいと思っています」

 児童発達支援士の資格取得で見えた新しい景色


スマイルコンパスは、なかなかスポーツに触れ合う機会が少ない子どもたちに、スポーツの価値を伝えたいという想いからスタートした。
しかし、実際に現場に立つと、その難しさを強く感じたと登坂は打ち明ける。


「正直、最初はやってみて難しいなと感じることが多かったです。障がいと一言で言っても、本当に様々な個性や特性がありますし、一人ひとりできることも全然違う。自分たちがスマイルコンパスとして何を提供できるのか、最初の頃は悩むことが多かったですね」


その中で登坂たちが感じたのは、自分たちがきちんと学ぶ必要があるということだった。


「これはもう、私たち自身がちゃんと勉強しなきゃいけないなと。そこで、児童発達支援士の資格取得にチャレンジすることにしました」


民間資格である同資格は、申し込みをするとテキストが送られてくる。
発達障害と一口に言っても、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠陥多動症(ADHD)などさまざまな特性があること、その特性が日常生活や学習の場でどのような困難につながるのかなど、テキストをもとに様々なことを勉強していくという。


「まずは、発達障害の子たちがどんな問題に直面しやすいのか、というところから学びました。そして、一次障害だけでなく、不登校やひきこもり、不安感や自己肯定感の低下など、いろいろな二次障害があるということも知りました」


勉強が進むにつれて、子どもたちとの関わり方について考えが変わったと話す。


「何をやるにしても、言葉だけで伝えるのではなく、視覚的にも伝えていくことがとても大事だということ。どうやったら子どもたちが不安にならずに進められるか、プログラムを進める上で、見通しを立ててあげることがいかに大切かということを学びました」


登坂は約1ヶ月の間、1日3時間ずつテキストを読み、問題集を解き続けた。
内容は細かく、初めて触れる概念も多かったが、「時間を空けると余計に難しくなる」と考え、日程を詰めて学び切り、無事資格を取得した。

岩渕も同様に勉強を重ね、児童発達支援士の資格を取得し、ともに資格を取ったことで、スマイルコンパスの現場風景が大きく変わったと話す。


「やっぱり最初の頃は、自分たちのペースで進めてしまっていたなと思います。私たちの中では、事前に全部準備はしたし、先生たちとも内容の共有はできているから、あとはその通りに進めれば大丈夫だと。でも、その場で初めて内容を聞く子どもたちからしたら、何をやるのか見通しが立たないまま進んでいくので、すごく不安だったんだろうなと思います」


今は、事前に当日の実施プログラムを子どもたちに伝えるようにしたり、視覚的に提示する工夫をしているという。


「たとえば、ウォーミングアップひとつにしても、こうやってみようとただ言うのではなく、スライドに動物の絵を映して、この動物の真似をしてみようとか、視覚的にもわかりやすく伝えています。事前に全体の見通しを立ててあげることで、子どもたちも安心して取り組めているなという感覚がありますし、落ち着いてプログラムに参加してもらえるようになったと思います。私たち自身も、以前より円滑に進められているという実感があります」

「できる・できない」を超えた成長の瞬間と、メダルがくれる特別な時間


活動の中では、さまざまな課題にも直面したという。


「たとえば、ボールをシュートしてみようという取り組みで、走れる子もいれば、思うように体を動かせない子もいます。その中で、車椅子に乗っている子たちに対しては、どうすればいいのかというのは一つの課題でした。先生たちも一緒に考えてくれて、最終的に車椅子の足元に板をつけて、それでボールを追えるようにして、シュートが打てるように工夫をしました」


また、コミュニケーションが苦手な子への関わり方も工夫している。


「同じ取り組みをするにしても、理解に時間を必要とする子もいます。そういう場合は、まずはこれをやってみよう、次はこれをやってみようと段階を踏みながら進めるようにしています。体に触れられることがすごく苦手な子もいるので、そういう場合は距離感にも気を付けるようにしていますね」


活動内容は学校や施設によって違うが、登坂が共通して感じているのは、“できないことができるようになった瞬間の子どもたちの表情が輝いている”ということ。

「できなかったことができた時の、あの嬉しそうな表情を見ると私も本当に嬉しくなります。できなかったとしても、やってみようと挑戦することこそが成長ですし、少しずつでも前に進もうとする子どもたちの姿は、私たちにとっても大きな学びになっています」


そしてもう一つ、子どもたちの目が一気に輝く瞬間がある。
それは、登坂や岩渕がオリンピックやワールドカップで獲得した金メダルを見せたときだ。


「正直、子どもたちは私たちを知らない子たちばかりなので、最初は“誰か来たな”くらいの感じなんです。でも、メダルを出した瞬間、本当に一瞬でキラキラした目に変わるんですよ。私たちのことを、最初と別人を見ているような雰囲気になって(笑)その時は、現役時代頑張ってきて本当に良かったと思うし、メダルの価値をすごく感じますね」


日常生活の中で、世界の舞台で戦った証である金メダルを目にする機会はほとんどない。
先生たちが事前学習で現役時代の動画を見せてくれていることもあり、「戦って獲ったんでしょう?」と質問してくれる子どももいるという。


「メダルを直接見ることで、頑張ることの意味や、努力の先に得られる喜びなど、少しでも何かを感じてくれてたら嬉しいなと思います」


スポーツは、勝つためだけのものじゃない。

 “スポーツは本来楽しむもの”
スマイルコンパスの現場には、その原点が確かに息づいている。