2026年7月25日

試合中の気持ちの切り替え方|現役アスリート、五輪金メダリスト4名が実践する5つの方法

アスツナ編集部

ミスした後に引きずってしまう、失点後に集中力が切れる、流れが悪い時にそのままずるずると崩れてしまう——試合中の「気持ちの切り替え」は、多くのアスリートが抱える課題です。

本記事では、レスリング五輪金メダリスト・登坂絵莉さん、土性沙羅さん、柔道五輪金メダリストの出口クリスタさん、そして水泳でパリ五輪に出場し、現在はアメリカ・カリフォルニア大学バークレー校で競技を続ける三井愛梨さんへの独自インタビューをもとに、試合中に気持ちを切り替える具体的な方法を紹介します。読み終えるころには、試合中に崩れた流れを立て直すための具体的な手がかりが見つかるはずです。

この記事で紹介するアスリート

  • 登坂絵莉(レスリング/2016年リオ五輪金メダリスト・スマイルコンパス理事長)
  • 土性沙羅(レスリング/2016年リオ五輪金メダリスト・至学館大学コーチ)
  • 出口クリスタ(柔道/2024年パリ五輪カナダ代表金メダリスト)
  • 三井愛梨(水泳/2024年パリ五輪日本代表・カリフォルニア大学バークレー校)

なぜ試合中に気持ちを切り替えられないのか

試合中に気持ちを切り替えられない原因は、単なる「精神力不足」ではありません。

心理学的なメカニズムを理解することで、対策が見えてきます。ここでは、切り替えられない3つの原因——「反芻思考(はんすうしこう)」「感情の乗っ取り」「完璧主義」を解説します。仕組みを理解しておくと、後半で紹介するテクニックが「なぜ効くのか」も腹落ちしやすくなります。

「反芻思考(はんすうしこう)」のワナ

ミスや失点の後、「なんであんなことをしたんだ」「あれがなければ」と過去を繰り返し考えてしまう「反芻思考」。これに捕らわれると、意識が過去に向き、「今この瞬間」のプレーに集中できなくなります。

登坂 絵莉登坂 絵莉
「点数を取られたら焦っちゃって、無駄にタックルで突っ込むみたいなことが、子供の頃はすごく多かったんですよ。父にいつも『焦るな』と言われていたけど、焦って突っ込んじゃう。ピーって笛が鳴った瞬間、笛と同時に飛び込むみたいな。相手だって警戒しているから決まるわけがないのに」

ミスや失点に動揺するほど、無駄な攻めに走り、状況を悪化させる——これが反芻思考のループです。登坂さんは「失敗のビデオを見て、これではダメだ」と振り返ることで、自分の悪いパターンを客観視するようにしていました。まずは「過去のミスを繰り返し考えてしまう自分の癖」に気づくことが、切り替えの第一歩になります。

【参考】反芻思考が「今」への集中を妨げるメカニズム:「うつ病における脳内ネットワークと反芻思考」(神経心理学 第40巻4号/J-STAGE)、「反芻思考(ぐるぐる思考)とは?」(川口メンタルクリニック・精神科医解説)

「感情の乗っ取り」

怒り、悲しみ、不安などの感情が思考を支配し、冷静な判断ができなくなる状態です。特に「怒り」は試合中に起こりやすく、「審判の判定に納得できない」「相手のプレーに苛立ちが」といった場面でパフォーマンスを下げます。

出口 クリスタ出口 クリスタ
「大学生ぐらいの時は、自分の怒りをあまりコントロールできないタイプで、その怒りをそのまま柔道に出していたんです。攻撃力はめちゃくちゃ上がるんですよ。力強さは生まれるんですけど、やっぱり冷静な判断、防御、繊細な動きができなくなるから、良くはなかったんですよね」

出口さんは25歳ごろから「怒ると疲れる」と気づき、感情を試合に持ち込まないスタイルに変えました。「攻撃力は上がるが、繊細さが失われる」——感情に乗っ取られた状態のリアルな代償を、本人の言葉で語ってくれました。感情そのものを否定するのではなく、それが判断力を奪っていないかを見極めることが大切です。

【参考】強い感情(怒り・不安)が理性的な判断を一時的に奪う「扁桃体ハイジャック」:「扁桃体」とは?(ベスリクリニック東京・心療内科)、「日本人アスリートの競技中に生じる思考の構造および発生傾向の検討」(スポーツ心理学研究/J-STAGE)

「完璧主義」の落とし穴

「絶対にミスしたくない」という完璧主義が、かえってミス後のダメージを大きくします。「ミスはあって当たり前」という前提を持てるかどうかが、切り替え力の差に直結します。

土性 沙羅土性 沙羅
「コーチとして見ていて、選手が相手の動きに反応しているというより、ただ『合わせているだけ』になっている時。以前なら迷わず飛び込めていたタイミングで、一瞬の躊躇が見える時。そういう時に違和感を感じます。普段通りの動きができず、表情が強ばったり、不安そうな様子が見えるときも、何か違うなと」

完璧主義に陥った選手は、攻めるべき場面で躊躇する——土性さんが現場で見つけている、一番わかりやすいサインです。「合わせているだけ」になった瞬間、選手は思考を取り戻す必要があります。「ミスは起こるもの」と前提を置き換えるだけでも、ミス後の立て直しはずっと速くなります。

【参考】「ミスへのとらわれ」型の完全主義はパフォーマンスを下げ、抑うつを強める:「大学生アスリートにおける価値に沿う行動と完全主義が抑うつ症状とスポーツパフォーマンスに及ぼす影響」(認知行動療法研究 第50巻1号/J-STAGE)、「完璧主義的努力が様々な状況下でスポーツパフォーマンスに及ぼす影響」(順天堂大学)

トップアスリートが実践、5つの切り替えテクニック

試合中の気持ちの切り替えは、才能ではなく「テクニック」です。3名のトップアスリートが実際に試合中に使っている、「①3秒ルール」「②身体のリセット動作」「③フォーカスワード」「④今できること」「⑤試合全体で考える視点」の5つの具体的な方法を紹介します。どれも明日の練習から取り入れられるものばかりです。

【参考】ここで紹介する技法は、国の機関が体系化した心理スキルとも対応しています(「注意の切り替え=フォーカルポイント・キューワード」「リラクセーション=呼吸法」など):「メンタルトレーニング技法」(日本スポーツ振興センター JSC/ハイパフォーマンススポーツセンター HPSC)

1. 「3秒ルール」で感情をリセットする

ミスや失点の後、感情を引きずるのは3秒以内と決めるルールです。「3秒だけ悔しがる。その後は次のプレー」という明確なタイムリミットが、反芻思考のワナを断ち切ります。

実践のステップ

  • ミス直後は「3秒だけ」感情を出し切る(悔しがる、歯を食いしばるなど)
  • 3秒経ったら深呼吸を1回
  • 「次」と声に出す(心の中でもOK)
登坂 絵莉登坂 絵莉
「ある程度、残りの時間が30秒なり1分なりあれば、ちゃんと崩しから最後の1本のタックルで勝負をかけるところを大切にしていました。基本に立ち返るみたいな。とにかく焦らずに、やることをやってから攻める。焦って突っ込んでも、相手は警戒しているから決まらないので」

「焦りで突っ込まない」ためには、ミスの後にいったん落ち着く時間が必要——登坂さんが実践していた「3秒ルール」の本質です。感情を出し切る時間をあえて区切ることで、次のプレーに頭を切り替えられます。

登坂 絵莉登坂 絵莉
「負けた試合のビデオを見たら、いやこれはダメでしょってわかる。自分が相手の立場だったら絶対警戒するし、笛と同時のタックルなんて。でもやっぱり、いきたくなっちゃうんですよ、負けていると。だけど我慢して我慢して、まず組手騙しをやってから入る。これは振り返りの反省をしていないと、毎回やってしまいがちなんです」

試合中の感情コントロールは、試合後の振り返りの積み重ねで作られる——。登坂さんは夜中の1時2時に帰宅しても、その日のうちに父と試合ビデオを見て反省するのが鉄則だったと言います。3秒で切り替える力も、こうした日々の積み重ねがあってこそ本番で発揮できるのです。

2. 「身体のリセット動作」を決めておく

気持ちを切り替えるトリガーとして、特定の身体動作を決めておく方法です。「胸を叩く」「太ももを叩く」「靴紐を結び直す」など、自分だけのスイッチ動作を持つことで、意図的に気持ちをリセットできます。

土性 沙羅土性 沙羅
「次のプレーにフォーカスするために、『絶対どこかで取り返せる』『絶対に勝つ』など、短い言葉を自分に投げかけていました」

リセット動作と組み合わせる「短い言葉」も土性さん流。動作だけでなく、言語化された自己暗示を瞬時に挟むことで、感情のスイッチが明確になります。

出口 クリスタ出口 クリスタ
「私、漫画の『刃牙』が好きなんですけど、主人公が水をイメージするんですよ。自分の体の中に水が流れているイメージ。これめっちゃいいじゃんと思った。私はもともと体の力が強くてこわばりやすいから、なるべく水、液体に近いものをイメージして組手に入ろうとする。脱力からインパクトが一番生まれると思っているので」

柔道のファーストコンタクト前に、出口さんが使っているリセット術。「脱力からインパクト」という発想は、こわばった状態で拍手をしてもいい音が鳴らない、というたとえで本人が説明してくれました。動作でもイメージでも、自分が確実に切り替えられるスイッチを一つ決めておくことが効果的です。

【参考】決まった動作(プレ・パフォーマンス・ルーティン)が緊張を抑え集中を高める効果は、メタ分析でも確認されています:「『ルーティーン』はスポーツパフォーマンスを確実に向上させることが判明」(日本スポーツ栄養協会 SNDJ)、「スポーツ選手の『あがり』の対処法に関する実践的研究―パフォーマンスルーティンに着目して―」(健康運動科学 2017/武庫川女子大学)

3. 「フォーカスワード」を活用する

「集中」「足を動かす」「呼吸」など、意識を「今この瞬間」に引き戻すためのキーワードを決めておく方法です。ネガティブな思考が浮かんだ時に、フォーカスワードを心の中で唱えることで、強制的に意識を切り替えます。

登坂 絵莉登坂 絵莉
「練習は嫌だなと思うタイプだった。だけど、本当に1日1日自分との戦い。嫌だなと思ってその気分のまま入っちゃうと、いい練習は絶対できないから。限られた時間、嫌だけどこの時間だけは頑張る。とにかくその時の自分から逃げない、我慢して我慢してやり続ける積み重ねだけだと思っていた」

登坂さんのフォーカスワードは、本人の表現で言えば「我慢」「逃げない」。試合中に限らず、日々の練習から自分にかけ続けてきた言葉だからこそ、極限の場面でも瞬時に効きます。まずは自分が「今」に戻れる短い言葉を一つ決め、練習のときから口にしてみましょう。

4. 「今できること」に意識を向ける

過去のミスや将来の結果ではなく、「今この瞬間に自分ができること」に意識を向ける思考法です。これは「他責にしない」マインドセットとも通じるもので、自分でコントロールできる範囲に集中することで精神的な安定を保ちます。

土性 沙羅土性 沙羅
「練習では、残り30秒や20秒で数ポイント負けている『絶体絶命のシチュエーション』を意図的に設定して、私たちコーチ陣が厳しく煽るような声かけを行います。選手の闘争心に火をつけ、『何が何でもポイントを取る』という強い執着心を引き出すためです」

土性さんが指導現場で行っているのは、「今できること」に集中する練習そのもの。残された時間でやれることに執着する力——これは試合だけでなく、練習で磨くトレーニング項目です。

出口 クリスタ出口 クリスタ
「投げられそうになっている時は、まず背中をつけないということだけ。あとは何も考えてないですね。試合の4分間、本当に細かいことは考えていないです」

格闘技の極限の場面で、出口さんは「コントロールできることだけ」に意識を絞ります。「投げられない」ではなく「背中をつけない」——最も小さな単位の行動だけに集中するのが、本人のスタイルです。自分の力が及ぶ範囲に矢印を向けるほど、崩れた気持ちは立て直しやすくなります。

5. 「試合全体」で考える視点を持つ

1つのミスや失点で試合が終わるわけではありません。「試合全体で見ればまだやれることはある」という俯瞰的な視点が、精神的な余裕を生みます。

出口 クリスタ出口 クリスタ
「2018年の世界選手権の3位決定戦で、後半に技ありを取られたんですよ。あと残り20秒〜30秒ぐらいで。その時でも『まだ時間はある』と思っていた。それで、ラスト7秒で取ったんです。振り返して、そのまま抑え込んで勝ちました」

ラスト7秒で逆転勝ちした世界選手権のエピソード。「最後の1秒まで時間はある」という捉え方が、極限の場面で力を発揮しました。

出口 クリスタ出口 クリスタ
「常に、いかに相手にポイントを取られていても、最後の1秒までは時間があると思っている。何が起きてもおかしくないから、柔道って。だから諦めることはないです。自分は、最後の最後まで、できることは頑張ろうというスタンスでやっています」

俯瞰的な視点は、特別な才能ではなく「方針」の問題。出口さんは試合中に時計を見るタイミングも意識的に決めていて、「負けているとき」と「ポイントを取って相手が攻めてきているとき」だけ確認するそうです。「まだ終わっていない」と捉え直すだけで、ミス後の焦りは大きく和らぎます。

個人競技でも、レースを一続きの全体として捉える視点は同じです。水泳の三井さんは、1本のレースを通したペース設計そのものが「全体で考える」ことだと話します。

三井 愛梨三井 愛梨
「水泳は前半と後半が一続きにつながっているので、大きく取り返すのは難しいんです。だから200メートルバタフライなら、最初の50メートルは力まずテンポよく、気持ちよく入る。次のラップはテンポを維持して、落としすぎず力を入れすぎず。第三ラップでギアを上げてキックを少し強めに、でもテンポはそのまま淡々と。最後のラストスパートでキックを入れてテンポを上げる——と、ラップごとに泳ぎ方を変えています」

一つのミスを取り返すのではなく、レース全体を四つのラップに分けて設計しておく。流れを止められない競技ほど、「全体で考える」視点が支えになります。

競技別の切り替えポイント

気持ちの切り替え方は、競技の特性によっても異なります。ここでは格闘技や水泳など、競技ごとの「離れられない・止まれない中での切り替え」を、各選手の経験をもとに紹介します。自分の競技に近い視点から、応用のヒントを見つけてみてください。

レスリングの場合

レスリングでは、ポイントを取られた後や技をかけられた後の立て直しが重要です。相手と密着し続けるため、「離れてリセットする」ことができないのが特徴です。

登坂 絵莉登坂 絵莉
「組み合った状態で考えることはありましたね。気持ちを切り替えるのではなく、うまくいかない時はどう攻めようかな、と。組み合っている時って微妙に休める時間ではあるんです。レスリングって相手と密着しているから、お互いちょっと組み合って止まる瞬間がある。そこは結構お互い考えていると思います」

外から見ると数秒の沈黙の瞬間も、選手の内側では戦略の組み立てが起きている——登坂さんが教えてくれた「組み合いの中の思考時間」です。

登坂 絵莉登坂 絵莉
「視野も広いし、組み合って相手の目も見てない。どこか首の下らへんをぼやっと見ているけど、全部見えている。相手の足の動き、手の動き、どこを狙っているかもなんとなくわかる」

「ぼやっと見て、全部見えている」——これはレスリング選手特有の集中状態の描写。一点に集中せず、広く見ることで反応が早くなる、というアスリート視点の知見です。離れられない競技でも、組み合いの一瞬を「考える時間」に変えることが、切り替えの鍵になります。

柔道の場合

柔道では、組み手の前のファーストコンタクト、投げられた直後の数秒間が勝負を分けます。「離れられないけれど、瞬時にリセットする」が求められる競技です。

出口 クリスタ出口 クリスタ
「投げられそうになっている時は、まず背中をつけないということだけ。とっさにそう判断していると思います。とりあえずできるだけ早く投げて、早く試合を終わらせる。できれば4分内で試合を終わらせる」

考えるのではなく、反応する——。出口さんの「投げられた直後の立て直し」は、思考というより身体に染み込んだ判断です。

出口 クリスタ出口 クリスタ
「ファーストコンタクトって結構大事なんですよ。相手にどういう印象を与えるかとか、自分のフィーリングとか、その時の感覚を最初の方に感じられる。一発目の踏んで、最初の踏み合ったところで投げられちゃうことも多いから、そこを大事にしたくて、体に水が流れるイメージをしていました」

組み手の最初の一瞬で、その後の試合全体が決まることもある——。柔道独特の切り替えポイントを、出口さんはこう説明してくれました。瞬時のリセットが求められる競技ほど、あらかじめ決めた動作やイメージが効いてきます。

水泳の場合

水泳は、泳いでいる最中に立ち止まってリセットすることができない競技です。三井さんの切り替えは、泳ぎを止めることではなく、冷静さを保ったまま泳ぎ続けることでした。

三井 愛梨三井 愛梨
「ペース配分は体に染みついているので、崩れることはほとんどないんです。まれに崩れるのは、ばてている時やコンディションが悪い時。そういう時は隣のレーンの選手を横目で見ながら、『前半このくらいで泳げば後半で追いつけるな』と考えて、頭をなるべく冷静に保つようにしています」

止まれないからこそ、頭だけは冷静に保つ。横のレーンを情報源にして泳ぎの中で微調整するのが、水泳ならではの切り替え方です。

切り替え力を高める日常トレーニング

試合中の切り替えは、本番だけではなく日常的なトレーニングで磨くことができます。練習中から意識的に切り替えの練習をすることで、本番でも自然に使えるようになります。ここでは、現役・指導の現場で実際に行われている方法を紹介します。

練習中に意図的に失敗状況を作る

練習の中で意図的に不利な状況を設定し、そこから切り替える練習をする方法です。例えば「練習試合で2ポイントビハインドからスタート」「わざと苦手な状況から始める」など、切り替えが必要な場面を作り出します。

土性 沙羅土性 沙羅
「レスリングはブザーが鳴る最後の1秒まで勝敗がひっくり返る競技です。だからこそ、残り30秒や20秒で数ポイント負けている『絶体絶命のシチュエーション』を意図的に設定する。コーチ陣が厳しく煽るような声かけをして、何が何でもポイントを取る執着心を引き出す。パニックになる状況でこそ、冷静かつ攻撃的に動ける『切り替え力』を養うんです」

土性さんの練習設計は、「試合中に切り替えが必要な瞬間」を、毎日の練習で先取りして経験させる仕組み。本番で初めて経験することがないようにする、というシンプルな考え方です。普段から少しだけ苦しい状況に身を置くことが、本番での落ち着きにつながります。

【参考】プレッシャー下を想定した「ストレス・マネジメント」「シミュレーショントレーニング」も、国の機関が体系化したメンタルトレーニング技法に含まれます:「心理サポート」(日本スポーツ振興センター JSC/HPSC)

日常生活での切り替え練習

切り替え力は競技中だけでなく、日常生活でもトレーニングできます。嫌なことがあった時に意図的に気持ちを切り替える練習をすることで、試合での対応力が向上します。

登坂 絵莉登坂 絵莉
「私は毎日、練習嫌だなって思うタイプだったんです。だけど、本当に1日1日、自分との戦い。嫌だなと思ってその気分のまま入っちゃうと、いい練習は絶対できない。限られた時間、嫌だけどこの時間だけは頑張る。とにかくその時の自分から逃げない。我慢して我慢して、やり続ける積み重ね」

「練習を気分でしない」——これも一つの切り替えトレーニングです。日々の練習開始の瞬間に「嫌な気持ち→集中モード」への切り替えを繰り返すから、試合中の切り替えも自然にできるようになる、という登坂さんの考え方です。日常の小さな場面でこそ、切り替えの習慣は育っていきます。

よくある質問(FAQ)

試合中の気持ちの切り替えについて、アスリートからよく寄せられる4つの質問に回答します。実際に取り組むときに迷いやすいポイントなので、自分の状況に近いものから読んでみてください。

Q. ミスを引きずってしまうのは性格の問題ですか?

性格の問題ではありません。ミスを引きずるのは人間の自然な反応ですが、「3秒ルール」などのテクニックを練習することで、切り替えのスピードを上げることができます。トップアスリートも同じで、トレーニングで身につけたスキルです。まずは本記事の5つのテクニックから、取り入れやすいものを一つ試してみましょう。

Q. 試合中に気持ちを切り替える時間がない場合はどうすれば?

格闘技などテンポが速い競技では、意識的な切り替えが難しいことがあります。出口クリスタさんの「水のイメージ」のように、長い思考ではなく、瞬時に呼び起こせるイメージや短い言葉を1つ持っておくのが効果的です。あらかじめ「これ」と決めておくことで、考える余裕がない場面でも反射的に切り替えられます。

Q. チームメイトのミスに苛立ってしまう時はどうすれば?

まず「自分にできること」に意識を戻しましょう。チームメイトのプレーはコントロールできませんが、自分の次のプレーはコントロールできます。出口クリスタさんの「コントロールできることだけ考える」アプローチが参考になります。苛立ちを感じたら、矢印を相手ではなく自分の次の一手に向け直すことが切り替えの近道です。

Q. 切り替えがうまくなるまで、どのくらいの練習が必要ですか?

個人差はありますが、2〜3ヶ月意識的に練習することで変化を実感できる方が多いです。まずは「3秒ルール」だけでも練習から取り入れてみましょう。土性さんが指導現場でやっている「絶体絶命シチュエーションの設定」も、自分やチームで取り入れやすい方法です。焦らず続けることが、確実な変化につながります。

まとめ|切り替え力は「トレーニングで磨けるスキル」

試合中の気持ちの切り替えは、才能ではなくテクニックであり、トレーニングで磨けるスキルです。3名のトップアスリートも、日々の練習の中でこの力を磨いてきました。最後に、この記事のポイントをまとめます。

  • 切り替えられない原因は「反芻思考」「感情の乗っ取り」「完璧主義」
  • 「3秒ルール」「リセット動作」「フォーカスワード」「今できること」「俯瞰視点」の5つが有効
  • 格闘技では「離れられない中での切り替え」が独自の課題
  • 練習から意図的に失敗状況を作り、切り替えをトレーニングする

明日の練習から「3秒ルール」を試してみませんか。小さな一歩が、あなたの試合でのパフォーマンスを変えます。崩れた流れを立て直す力は、今日からの積み重ねで誰でも身につけられます。

本記事の心理学的な解説は、選手への独自インタビューに加え、以下の学術論文・公的機関・専門医による情報を参考にしています。

公的機関

学術論文(J-STAGE・大学)

専門医・医療機関による解説

  • 川口メンタルクリニック(精神科医)「反芻思考(ぐるぐる思考)とは?今すぐできる対処法」https://kawaguchi-mental.jp/</a>
  • ベスリクリニック東京(心療内科)「不安を軽くする『扁桃体』のヒミツ」https://besli.jp/</a>